UZU・UZUインタビュー13

区別があるとすれば、
いい音楽か、そうでないかだけ。
音楽にジャンル分けはいらない。


■photo■photo

 

 

森下 幸路(Koji Morishita)
福田 進一(Shin-ichi Fukuda)


2000.5.31

2000年5月31日開催された
デュオコンサート。
斬新かつ異色な輝きを放つ
二人のアーティストに
彼らが生み出す音楽世界と
感動の原点をうかがいました。

お二人は、どんなきっかけで楽器をはじめられたのでしょうか。

森下:親が好きで、近くにいい先生がいるというので・・・。まぁ、当時の英才教育というのでしょうか。それがきっかで始めました。最初練習は嫌いだったんですけど、発表会など割と人前に出ることが好きで、それで、ずっと続いているような感じですね。この道に進もうと思ったのは、中学3年生ぐらいですね。静岡県の浜松市に住んでいたころです。

福田:私がギターをはじめたのは12歳ですから、遅かったですね。その前に10歳ぐらいからピアノをやってましたけど、手遅れで・・・。(笑) ピアノをやってた周りの女の子が、へたくそっていう感じで、笑うんです。残酷なんだよね。それで深く傷つきまして、先生もひじょうに厳しい先生で、ピアノはだめだなって思いました。たまたま、その教室の2階にギター教室ができて、1階のピアノ教室から2階のギター教室に引っ越した感じです。その当時、ビートルズブームだったんですが、小学校6年生ぐらいでギターをする子は少なかったんですね。大阪の中心街で育ったんですが、ギターをする大学生やOLが多かったんです。そんな環境でおだてられれば、子供でも気が乗ってしまう。それで、ギターをどんどんやっていったのがきっかけですね。でも、最初はクラッシックギターの存在さえ知らなくて、フォーククルセダーズとか亡くなりましたけどブルーコメッツの井上大輔さんたちの音楽とか、あるいはベンチャーズや少し経つとビートルズといったものでしたね。やっているうちに、ここはクラッシックの基礎を勉強しなければならないって思ったんです。それでこの道に進みました。

森下さんは、8歳でニューオリンズ・フィルと共演したそうですが、どんないきさつだったんでしょう?

森下:父親の仕事の関係で、家族全員でアメリカにいたんです。それで、僕が小さいころアメリカで育つんですが、それがきっかけでした。今は、当時のことをあまりよく覚えていないんですけど、アメリカもそういう英才教育が盛んで、おだてられて僕も弾くようになったんです。コンチェルトで共演しました。当時は、天才だったんですね。(笑)

福田さんは、大阪に生まれてフランスのパリで青春時代を過ごしたそうですが、そのころの生活はどうでしたか?

福田:日本の音楽大学には、当時ほとんどギターの分野がなかったんです。僕は、大学へは、普通に勉強して進学したんですね。関西大学だったんですけど、2年のときに休学してパリに行ったんです。よく、スペインになぜ行かなかったのかと聞かれるんですけど、パリに国際コンクールがあって、世界中からギターの名手が集まるっていうんで、そこ行ったらいいことが起こるんじゃないかという予感があったんですね。自分にとってパリは娯楽のないところでした。その分ギターの勉強は集中してできましたね。そんなとき、スペインのマドリードの友達から1本の電話があったんです。ヨーロッパにはないパチンコ屋ができたって。すぐさま夜行列車に乗って行った思い出がありますね。そしたらほんとにあったんですよ。(笑)

森下さんは、青春時代はどんな過ごされ方をされてました?

森下:僕は、アメリカから帰ってきて桐朋大学に入学したんですが、その間2年ほどアメリカのシンシナティ大学に編入したんです。あっちは雪が多くて、マイナス20℃ぐらいになるんですが、テレビなどもなかったし、やることがないんで一所懸命練習しましたね。朝から晩まで。だけど、あっちはパーティーがいっぱいあるんですよ。週末には友達が30人とか40人を呼んで楽しむ、飲んでは、帰ってきてまた練習するといった生活でしたね。そのニューオリンズにいたのは、60年代だったんですが、人種差別がまだあった時代でした。今でも黒人の割合が多いですよ。ジャズなんかもほんと盛んで、アメリカでは、特徴のあるところですね。そんなこともあってか、今は開放的ですばらしいところですよ。89年からはサイトウキネン・オーケストラに所属するんですが、直接斎藤先生からは教えていただいてはいません。そのお弟子さんから引っ張られた形ですね。たしか小澤征爾先生が1期生ですから、直接知らない世代も多いです。でも、そうやって若い人たちを育てるのもオーケストラの役目ですからね。

音楽家からの目で、音楽に対しての外国と日本の違いは、何かありますか?

福田:基本的には、音楽が好きな方は世界中にたくさんいますし、特別差をつけて考えたことはないです。日本のお客さんはクールだ、反応が冷たいとかいう評価がありますけど、僕はじっくりかみ締めて反芻するように聴いてくれているお客さんは、大事だと思う。94年から毎年キューバのハバナに行ってるんですが、演出がひじょうにすばらしいですね。演奏会を盛り上げていくっていうのかな。コンサートっていうのは、一種のお祭りなんですね。一つのイベントに対する演出とか、みんなで楽しもうっていう意識が強いんですね。お客さんも受身でなくて能動的に音楽に参加してるんです。それで、舞台に出た途端にスタンディングオーベーションになることだってあるんです。まだ、何も弾いていないんですけどね。(笑) それは、演奏家にとっても気分のいいものですよね。ほっといてもいい演奏をしちゃいますよ。イスラエルに行ったときも、そんな経験をしたんですけど、そうゆう方向に、日本も変わっていってほしいと思いますね。日本だと演奏の邪魔をしちゃいけないとか、遠慮があるのを僕なりに変えていければと思いますね。この間のキューバでは、ブエナビスタ・ソシアル・クラブ聴いたんですが、CDとか映画でやってたやつとは全然アレンジが違うんです。舞台に対する演出の仕方が違うんでしょうね。キューバの若い人たちも音楽に対しては、厳しい姿勢を持っていて、しかも楽しんでいるんですね。理想郷ですよ。設備もすばらしくて、古くて新しいというのか、むしろ日本やアメリカよりも先のことをやろうとしているんです。

森下:3月に仙台フィル(仙台フィルハーモニー管弦楽団)が初のヨーロッパ公演に行ってきたんですけど、向こうのお客さんは気軽に楽しもうっていうところがあるんですよね。行ったのはオーストリアだったんですけど、若い人もお年寄りも普通の格好で気負わず演奏会に行って、長い長いラフマニノフのシンフォニーをただゆったり座って聴いているんです。やはり伝統の違いっていうのはありますね。日本の場合は、気負って正装して行かなくちゃいけないとか、礼拝に参加するように、義務的で儀式的な感じがするんです。でも、若い人たちがポップスを聴きに行くように、この日本でもクラシック音楽を聴きに来てほしいと思いますね。そうしていただけるよう、私たちも演出していかなければいけなと感じています。

福田:それから、分かればいいのかどうかという問題がありますね。例えば、弦楽カルテットだとたいてい難しくて分からないとお客さんは言うんですね。でも、分からない程度だったらヨーロッパのお客さんも同じくらいだと思うんです。コンプレックスを持つ必要は全然ない。逆に言うと、例えばポップスや演歌というのは分かりやすい。だから、何に対して分かりやすいのか、ということを、もう一度問いただす必要があるんですよね。分からないのが格好悪いから、分かった格好をするのか、その辺の心の気負いを取っ払っていく必要があるんだと思います。

森下:分かるとか分からないとか言うのについては、ヨーロッパの人々は、好きか嫌いかという判断をしても、つまり、「I like・・・」とはいっても「I don't understand・・・」とは言いません。そう考えると、分かって聴いているという状態も何か変な感じがしてきますね。 ■photo
▲独創的な音を生む二人の演奏シーン

クラシック音楽から見て他のジャンルの音楽について、何か思うこと、感じることはありますか?

福田:良いか悪いかに尽きるように思います。例えば、乗りの悪いベートーベンを聴くとしたら、乗りの良いベートーベンを聴くほうがい良いわけで、何が悪いのかと言えば、乗りが悪いことですよね。もっと突き詰めていくと、何が本物かとうことになるんですけど、これを一つずつ掘り下げていくと、日本人だったら「さくらさくら」だけしか残らなくなったりするようなもので、ほんと難しい問題ですね。だから、乗りが良いとか聴いてて心地良いとかに尽きるように思いますね。クラシックギターなんかは、クラシックとポピュラーのすれすれのところにある楽器だと思います。一歩間違うとすごく下品になりますし、そこを上品なところで留めながら、乗りを良くするする方法を常に考えていますね。

森下:僕は、クラシックとか例えばポピュラーとかいう垣根は、全く感じないで弾いているので、それこそ良い音だったり、すごく気持ち良い音だったら何でも良いと思うんですね。南米のサンバにしても、どうクラシックと違うのかと言われても、僕にはうまく説明ができないんです。だから、クラシックとかポピュラーとか演歌とかをどうして分離しなくていけないのか、今までそうしてきたじゃないかというのが僕には分からないですね。ベートーベンだったらそのスタイルを学校とかでは教えられたことはありますけど、僕たちの世代は、自分たちの中で消化して、美しくなければ選択しないということも必要だと思います。そういった意味では、福田さんのようなあらゆるジャンルの音楽に接している人と共演することと言うのは、僕にとっては、一クラシック奏者としてではなく、一ヴァイオリニストとして、活性剤になりますね。

福田さんは、クラシックだけでなく、多方面にわたるジャンルの演奏やCD製作も精力的に行われていますが、それについてのきっかけなどお聞かせください。

福田:昔からそうなんですけど、マンネリになるのが嫌いなんです。2回とか3回とか同じ曲やるのが嫌で、やってるとどんどん落ち込んじゃうタイプなんです。だから、無理にでも自分で次の課題を作ってやらやらないと、次に進めないという自分の性格があって、それが自分の活動の大きな理由になったと思います。それと、パリで勉強したこともあって、パリにいると、例えばスペイン音楽をする人は南米や北欧の人、イタリアの人も多くいるわけで、それぞれ国にギターの文化があるんですね。ギターっていうのは、一つの文化になっていて、それに触発されるとレパートリーがいくらあっても足りないくらいで・・・。でも、色々なものをやっていかないとつまらないし、生きている間にやれることだけは全部やっておこうと思うんです。ギターというのはルーツ的に言って、紀元前にアラビアの文化圏で始まった楽器なんですが、シルクロードを渡って琵琶になったり、インドでシタール、アラビアはウードやスペインのギターと波及していって、一つの文化圏をつくるんです。ギターというのは、時代やジャンルを越えて見晴らしのいい楽器なんですね。フットワークが軽い楽器でもあるんです。色々な所へ行って、日本の福田はああ弾くんだということを受け入れてくれることに、心地よさを感じて、レパートリーもどんどん増えてくるです。

お二人それぞれにお聞きしたいのですが、音楽以外で、今いちばん関心のあることがあったら、教えてください。

■photo
▲曲間には、楽しいトークショーも。

福田:映画ですね。寝る時間を削るくらい好きなんですが、最近、海外へ行くことも多くて見てないんです。でも、家にいるときには、ビデオ屋とか映画館に直行することが多いですね。バイオレンスものもとか人情ものも好きだったりするんですが、この間、「ライフ・イズ・ビューティフル」を見て、思わず泣いてしまいました。分かってるのに引っかかってしまったって感じで、後で悔しい思いをするんですよ。

森下:僕は、旅行とか温泉が好きですね。温泉だと近場も行きますし、車でとか飛行機とか旅行気分で行くのが好きなんですね。そんなにアクティブではないですが、暇があると海外にもよく行きます。このごろは行ってないですけど、サイパンとか年に2回ぐらい行ってた時期もありましたね。旅行はやっぱりいいですね。

-ありがとうございました。


森下 幸路(Koji Morishita)/
8歳で米国ニューオリンズフィルハーモニー交響楽団と共演し、早くから才能が開花。桐朋学園大学音楽学部を経て、米国シンシナティ大学留学。特別奨学生として、名教師ドロシー・ディレー女史に学び、最優秀賞を受賞。88年から、92年まで安田謙一郎弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者を務める傍ら「ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全曲シリーズ」など各地で開催。89年からサイトウキネン・オーケストラのメンバーとなる。94年から毎年、東京でリサイタルを開催。96年からは、毎年テーマを設けて挑む『10年シリーズ』を東京と仙台でスタートさせ、各地でも展開する。99年は、ギターの福田進一との全国ツアーで日本初演。異色かつ意欲的なプログラムに挑み大好評を得た。97年度宮城県芸術選奨新人賞を受賞。

福田 進一(Shin-ichi Fukuda)/
パリ・エコール・ノルマル音楽院を首席で卒業。81年パリ国際ギターコンクール優勝。以後、内外の多くのコンクールにて輝かしい賞歴を重ねる。94年と96年にはハバナ国際ギターフェスティバルに審査員として招かれ、メインイベントであるキューバ国立管弦楽団演奏会に登場。協演した武満徹のギター協奏曲「虹にむかってパルマ」で空前の大成功を収めた。また、96年12月、サントリーホール10周年記念演奏会にてシャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団と「アランフェス協奏曲」を協演。絶賛を博す。また、オーレル・ニコレ(Fl)、ギトリス(Vn)、フェルナンデス(Guit)をはじめ、ジャズ・ギタリストの渡辺香津美など、ジャンルを超えた一流の演奏家と共演を重ねる。驚異的なレパートリーに加え、近年は古楽器による19世紀のギター音楽の開拓、ジャズ、フュージョン系の新作初演に取り組み、従来のギター概念を塗り替える斬新な音楽性と画期的な色彩感覚は、世界的な注目を集めている。


ホームページ】 【前のページ】  【次のページ
Copyright © 2000 EZUKO HALL All rights reserved.