UZU・UZUインタビュー16-5

ゴドーを待ちながら

世紀を超え今なお語り継がれる名作、 ゴドー。
芝居という表現世界を巡り二人の演劇人が
ゆっくりと力強く語って くれました。


緒形 拳 (おがたけん)
(2001.6.30 インタビュー)

緒形 拳(KEN OGATA)インタビュー

緒形拳のえずこホール到着第一声は、「UFOみたいな小屋が見えて、ここでやんのかなと思ったんだけど、なかなかいいね、この劇場は。今まででいちばんいいんじゃないかな。いい公演になりそうだな…」。その予感は的中し、初日の公演終了後、客席は総立ちスタンディングオベーション。拍手は鳴り止まず、スタッフ、キャスト、そしてえずこホールにとっても思い出深い公演となった。その公演に先立ち、日本演劇界を代表する名優・緒形拳にお話を伺いました。


役者っていう人種が
   いちばん好きなんだなあ。


Q:子供のころは、落語がとても好きで、中学生のころには映画を異常に見て、それで辰巳柳太郎さんに憧れて、高校の文化祭で「王将」をやったのが役者の原点だと伺ったのですが。

終戦直後でやることもなかったし、なんか面白くない人生だなって思ってて、そのころ上の兄が俳優座の養成所に行っていて、母は「俳優なんかならないでおくれ」って言ってたんだけど、過労で死んだんです。それで、青山杉作の講義ノートっていうのがいっぱい残ってて、兄が親の反対を押し切ってまでやろうとしてた芝居ってのはどんなものなのかなと思って。一ツ橋講堂で、奈良岡朋子さんの「恋愛旅行」とか、俳優座の「タルチュフ」とか見たんだけど全然面白くない。で、新派に大矢市次郎という人がいて、なんか面白そうだなと思ったんだな。それでそのころ「王将」の文庫本読んで、それを高校の文化祭でやるって言ったら、夫婦愛の話学校でやっちゃいけない、木下順二みたいのをやれって言われたりしてね。で、新国劇で「王将」やってるって聞いて見に行って、すごいなあって思ってね。それでまあ「王将」を文化祭でやったんだけど、それが役者生活の土台みたいなもんかな。

Q:1958年に新国劇入団、初舞台が入った次の日、東横ホールの「無法松の一生」長屋の人Cの役だったそうですが、初舞台はどんな感じでしたか。

覚えてない。もうポカーンとしてたな。無法松が喧嘩してるとこで、「強いなー」って見てるだけ、台詞はなし。台詞なしで強いなあっていうのを表現しろって言われてね…。それで舞台に出されちゃうんで、否応なく体が覚えちゃうんだね。喋る位置はこの辺かなとかね。それで、“君はびっくりの仕方がおもろい”とか言われて、何が面白いかよく分かんないんだけど、あんまりびっくりしなかったのがよかったのかもしれないんだけど(笑)…。

Q:それから辰巳柳太郎さんの付き人をしながら俳優修行をされ、60年には「遠い一つの道」のボクサー役で初主演舞台。入団から2年で主役というのは、とても早いと思うのですが…。

最初は違う人の付き人で、たまたま便所で辰巳先生と一緒になって、“失礼ですけど、僕は先生のところで働きたくて新国劇に入ったんですけど”って話したら、次の月に来いって言われて、それからですね。
主演の初舞台は、島田正吾が、辰巳柳太郎のところになんだか元気のいいやつがいるけど主役をあいつにしたらどうかっていって…、辰巳先生は“イヤー駄目だろうって”って言ったらしいんだけど…(笑)、それでそのとき面白かったのは、演出家に市川誠一郎っていう映画監督を連れてきて、水を吹きかけるシーンがあって、やってみろって言われて、普通は仕種でやるのを、本当にブワーって吹きかけたら“それがいい!”って言われてね…(笑)、島田先生は水吹きかけられて複雑な顔してたけどね…(笑)。

Q:スクリ−ンデビューは初主演舞台「遠い一つの道」の映画化。テレビへのメジャーデビューは、65年NHK大河ドラマの太閤記の主役。このころから各方面で役者としてキャリアをつまれ、68年ごろ新国劇から独立したわけですが、そのあたりの経緯は…?

「遠い一つの道」はその年のいちばん入らなかった映画の1本(笑)。
新国劇をやめたのは、フジテレビと一緒になるっていう話があって、テレビと一緒になって一体何があるんだろうか、もうやめてもいいかなって思ったんですね…。
そうすると、新国劇のそういった動きとテレビ、映画に頻繁に出るようになった時期がたまたま重なったということなんでしょうか。
そう、そういう流れだね。

Q:ゴドーに取り組まれるときはどんなん感じだったんでしょうか。

サム(串田和美)からゴドーをやろうって言われて、知らないって言ったら、”知らないのか”って言われちゃって、知らなきゃいけないのかなあって思って(笑)、それで読んだんですよ。そしたら全然面白くない。で、俺やらないって言ったんだけど、やろうよって言われて、それでやることになったんだな。それでどっちの役やるっていうから、台詞の少ないほう(笑)、単純な選び方だね(笑)。
ゴドーは3年目になるかな、それでサムはパッパッパと台詞を言うんだけど、俺はパッパと言わないもんだから、いつも舞台の上でイライラしてんの。ドライとウェットの組み合わせというか…。で、奇妙にかみ合わないときと、かみ合うとつまらないときとかいろいろあって…。それでときどき台詞忘れちゃうと、サムはカァーと怒ったような顔をするんだなあ。でも怒ったってしょうがないよね。忘れちゃったんだから。そういうときにまた、仲がいいんだか悪いんだか、夫婦みたいなものかなとか、2人で一人なのかなとか思ったりするんだね。
それでね、串田さんは役者としてもいいんだけど、音楽、役者の動かし方とかいいんだな。物事を俯瞰で見られる人なんだよね。物事の全体的なうねりとかが分かってやってる。俺は実際やってみたり、匂いをかいでみたりしないと分からない。物事を引いて見ることができない。俺みたいなのが二人だったらきっとつまんないよね。どっかいっちゃうかもしれない。でもどっかいっちゃいそうなると、串田さんがすーっとうまく戻してくれる。うまい取り合わせだなって思うね。

Q:お二人の演技を見てると、演技しているのか生身の人間としてからみあっているのか、どっちなんだろうって思うときがあって、もう一度観たらまた違うんじゃないかなと思ったりするんですが…。

彼は(串田さんのほうを見て)あきちゃってるかもしれないけど、俺はすごい芝居だなって思ってる。
好きな芸人に死んだ横山やすしがいて、彼が一方通行を車で逆行して、向こうから来た車をどやしつけて無理やり通っちゃう、もう相手はぽかんとした顔してる、喋りだか台詞だかなんだか分からないんだけど、おかしいんだこれが。それで面白いんで次の日また見に行ったら、また同じことやってる。あっこれは計算してやってるなって思ったんだ。
それで、サムと俺と二人が漫才やってる中で、本当なのかな、本当じゃないのかなっていうところが見えたらしめたものかなって思ってるね。

Q:長いキャリアの中で、特に印象に残っている作品、監督、共演した俳優さんについて教えてください。

作品は、これからだね。
監督は、今村昌平、岡本喜八、五社英雄…、監督はいい監督と出会ってるなあ…。
それから、いい役者たくさんいるけど…。まあ、地球には、いろんな人がいていろんなふうに働いているんだけれど、役者っていう人種がいちばん好きなんだなあ、俺は…。


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