
2006年6月3日、日本を代表するクラシック・アーティスト村治佳織さんのギターリサイタルを開催。幼いころからギターを弾き始めたというお話から、最近聴いている音楽など、いろいろインタビューさせていただきました。
(Q:えずこホール、M:村治佳織さん)
Q: 2歳のころからお父さんの膝の上で子ども用のギターを弾き始めたということですが、そのときの記憶は残ってるんですか?
M: ないです(笑)。両親から聞いたり、当時の写真を見たりしてということです。
Q: それで、保育園の卒園式には、大きくなったらギタリストになりたいと宣言をしていたということですが、そのときはどんな風に意識していたんでしょうか。
M: 村治 先生から卒園式の前に「みんな考えておいてね」という時間があったと思うんですが、それで家に帰って「ギタリスト」って言う言葉を教えてもらったんだと思います。
別に親に言いなさいと言われたわけではないです(笑)。幼いころから毎日ギターを弾くのが日課だったということがあって、習慣というか毎日弾くものだという意識はありました。
Q: 小学校4年から福田進一さんに師事されたということですが、最初から国内最高のギタリストについてレッスンを受けるというのはすごいことですね。どんなレッスンだったんでしょうか。
M: 4年生の夏休みに、サマーギタースクールというのがあって参加しました。
4人の先生から1回ずつ指導を受けるという内容で、どの先生もすばらしかったのですが、その先生方の中に福田先生がいらしてとても楽しかったんです。
その様子を父が見て、すぐに教えていただくことになりました。
それまで父から受けていたレッスンでは基礎的なことを学んでいましたが、福田先生からは、いい音を出すための爪の形を教えていただいたり、それまで女性ギタリストは足を閉じて弾いていたんですが、男性と同じように開いて弾くフォームに変えたりなど、いろいろ教えていただきました。
Q: それからさまざまなギター・コンクールで優勝され、93年に15歳直前でデビュー。まだまだ若いと思うのですが、そのときは演奏するということをどんなふうに捉えていましたか。
M: プレッシャーは感じたということはなかったのですが、それまではどなたかとのジョイントだったり、入場無料というようなことがほとんどだったのですが、自分だけの演奏を聴きにチケットを買って来ていただく、これがプロの第一歩なんだなとは思いました。
そのときは目の前に巡ってきたチャンスをこなすのにただただ精一杯頑張ったという感じでしたね。
Q: そして、97年から約2年間、パリのエコール・ノルマルに留学、アルベルト・ポンセ氏に師事されるわけですが、どんなレッスンを受けましたか。また、パリではどんな生活をされてましたか。
M: ポンセ先生は基礎、ギターの弾き方を教えるというよりは、言葉で、それも哲学的な言い方で表現の方法などいろいろなことを教えていただきました。
パリでの生活ですが、音楽院の仲間と一緒に演奏会に行ったり、生活の中で音楽の話をすることが多かったですね。
それから一人暮らしをしていましたので、それまで何でも親にやってもらっていたのですが、自立の第一歩というか家事もいやいやするようになりました(笑)。
それと親から離れたことで、親に対する感謝の気持も芽生えてきましたし、留学してよかったなと思っています。
Q: パリから帰国後、ずっと第一線で演奏生活を続けられていますが、今、演奏するにあたって一番大切にしていること、あるいは心がけていることはどんなことですか。
M:
お客様に楽しんで聴いていただくのがいちばん大切なことだと思いますが、自分が純粋に音楽に取り組んで楽しむことができなければ、お客様には伝わらないと思うので、いつもそのようにありたいと心がけています。
Q: 昨年「右橈骨神経麻痺(まひ)」で、右手のすべての指が動かなくなるという症状に見舞われたそうですが、リサイタルを直前に控えていてどんなふうに思われましたか?その後右手の調子はいかがですか?
M: お蔭様で回復いたしました。症状が出たときは痛みはなく、朝起きたら突然動かなくなっていました。演奏家特有のものではなく、誰にでも起こりうるものらしいです。
Q: それは割りと短期間で元に戻ったんですか?
M: 回復には個人差があるようです。私は3ヵ月演奏活動を休ませていただきましたが、半年くらいかけても8割くらいしか戻らない方もいるようですし、2箇月くらいで戻る方もいると…。
私にとって、楽器を完全に弾けるようになってはじめて治るということなんですが、診療時に先生から、治るものだよ、と言われていたので、特に心配はせずにリハビリに励むことができました。
またその期間はウィーンフィルやベルリンフィルの来日公演があったので演奏会に行ったり、映画を観たり、読書をしたりとこれまでなかなかできなかったことをして過ごしました。
Q: CD,曲のことを聴きたいんですが、「トランスフォーメーション」で、スティングとの共演で知られるギタリスト、ドミニク・ミラーと競演することにいなったきっかけは?
M: 「トランスフォーメーション」に武満徹さんのオリジナル曲「不良少年」と「広島という名の少年」を録音するにあたって、どなたと(ギタリスト)と共演させていただこうかと考えていました。
ロンドンでの録音でしたので、ジュリアン・ブリームさんと共演できたら…という思いもあったのですが、すでに引退されていましたので。
そのときプロデューサーがクラシックのギタリストでなくてもいいのではないかということでドミニクさんを紹介してくれたんです。
それで、彼のCDを聴いたら、バッハの曲を演奏していたり、テノールのドミンゴと共演していたり、クラシックにも精通している方でしたので、私の中では全く悩まなく、実際共演させていただいて素晴しい方でした。
Q: スティングもですが、ドリカム、ホイットニー・ヒューストン、矢野顕子、アレサ・フランクリン、タック・アンド・パティなども幅広く聴くということですが、今はどんな音楽を聴いていますか?あるいはどんなアーティストが好きですか?
M: 何でも好きなのですが、最近は、トマティートとミシェル・カミロ、ジャズもジャズギタリストの渡辺香津美さんからいろいろ教わって、ジョン・コルトレーンやウィントン・マルサリスを聴いています。
Q: タック・アンド・パティのタック・アンドレスさんとは雑誌で対談もされてますが、ジャズなどほかのジャンルの奏法についてはどういうふうに感じていますか。
M:
タック・アンド・パティのCDを聴いています、とインタビューなど話していたら、ある雑誌の編集の方から対談のお話をいただいて実現しました。
奏法などの違いについては、クラシックは音色にこだわるのが特徴ですが、ジャズの場合は、その瞬間にしか生まれない音の連なりを大切にするということですね。
なので、たとえば渡辺香津美さんと共演させていただくときには、音のひびき、間違えないということに気を遣うよりも、のり(・・)を大事にするというふうな感覚を教えていただきました。
ただ、クラシックを演奏するときの、細心の神経を使ってこの空間にはこの音しかないという練習を重ねて、緊張感のある音を作り上げて聴いていただくという、その緊張感も好きなので、両方の表現ができるように目指したいと思っています。
Q: CD「リュミエール 」ではフランスの近代音楽の繊細で美しい世界が展開されていますが、そのような音づくりを意識して作られたんでしょうか。
M:
数年前よりロマリニヨス(スペインのギター製作家)の1972年製のギターを愛用しているのですが、フランスの作品を録音すると決めたときから、ギターも今までとは変えよう考えていました。
でも、あまり音色が変わりすぎてしまうのもよくないと思い、同じ製作家の1999年製のものを使っています。そのギターだとフランス語のちょっと鼻にかかったような響きが表現できると思ったので。
Q: これからやってみたいことはどんなことですか。
M: 次回の録音なんですが、ギター・ソロだけでなくイギリスのザ・シックスティーンという合唱グループとの共演を予定しています。
彼らのレパートリーは宗教音楽が多く、今回もスペインのルネッサンス音楽を中心に録音するのですが、ほかにもヴィラニロボスのギターオリジナル曲やパッヘルベルのカノンなどを合唱とギターにアレンジしていただいています。
合唱とギターという組み合わせは私にとっても新しい試みです。
Q: 音楽以外で興味を持たれていることはどんなことですか。
M:
1月からラジオ番組のナビゲーターをやり始めまして、いろいろな方にお会いする機会をいただいているのですが、前もってご出演いただくゲストの方のCDを聴かせていただいたり、その方の書かれた本を読んだり…、
もともと本を読むのは好きなので、楽しいですね。
Q: 本はどんなものが好きですか。
M: 雑読です。特に理由はないのですが、SF小説や推理小説はあまり読まないですね。ドキュメンタリータッチのものは好きです。それからここ最近は江戸ものの小説とかが好きです。
Q: これからどんな風に生きていきたいと考えていますか。
M: 私が育ったのは東京の下町で、人と人とのふれあいが多い場所、今でも古き良き時代の東京が残っているところです。
そんな環境で育ったアイデンティティは大事にしていきたいと思っています。
今日も地元ではお祭りで、朝からうきうきしているんですが、そういう気持とかも大切にしていきつつ、いずれヨーロッパの国のどこかにアパートを借りて1年の半分はそこに住みながら、そこを拠点に演奏活動を展開したいなと思っています。
(2006年06月03日開催 10周年記念事業 村治佳織ギターリサイタル えずこホール楽屋にて)
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