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中川 賢一(ピアノ)
ベルギーのアントワープ音楽院ピアノ科最高課程、特別課程を首席修了。1997 年オランダのガウデアムス国際現代音楽コンクール第3位。NHK FMなどに度々出演。他分野とのコラボレーションも活発。指揮では、東京室内歌劇場、広響、他と共演。NHKテレビ「名曲探偵アマデウス」、東京フィル等でピアノ演奏とトークを交えたアナリーゼ等を展開。お茶の水女子大学、桐朋学園大学非常勤講師。仙台市出身。 -
アーティスト プロフィール
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神谷 未穂(ヴァイオリン)
パリ国立高等音楽院最高課程を修了。ティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリンコンクールにてパガニーニ賞を受賞。プラハ室内管、ヘルシンキフィル、新日本フィル、東京フィル、東響等と共演を重ねている。仙台フィル、横浜シンフォニエッタコンサートマスター、ニューフィル千葉特認コンサートマスター、宮城学院女子大学特別教授。 -
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11月25日、川崎町立前川小学校と川崎町立川崎小学校で行われたのは、仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターとして活躍するバイオリニストの神谷未穂さんと、ピアニストや指揮者として、また多彩なジャンルの芸術とのコラボレーションでも評判の中川賢一さん2人による音楽アウトリーチ。
神谷さんと中川さん、登場するや否や演奏をスタートさせます。曲はエルガーの『愛の挨拶』。神谷さんは、演奏が始まると生徒たちが座っている席の近くへと歩みだしました。生徒たちと、ほんの数10センチしか離れていない距離で、バイオリンを弾いてみせる神谷さん。子どもたちも間近で見るプロの指使いに、いきなり圧倒された様子でした。
演奏が終わると、まずはバイオリンに関する知識を深めるコーナーへ。「弦は何本あった?」「弓は何の毛でできているか知ってる?」など、質問を交えたり、指板や魂柱など、バイオリンの各部位や機構を解説しながら、振動によって音が鳴る仕組みを丁寧に説明してくれたりしました。
実際にバイオリンの演奏も体験。「バイオリンを弾く上で大事なのは、姿勢と力を入れすぎないこと。そして音を想像すること。この3つです」と神谷さん。見た目では簡単な指導程度だったのですが、子どもたちはすぐにきれいな音を出すことができるように。そのままベートーヴェンの『歓喜の歌』のサビの部分を演奏し、子どもたちも喜びの声をあげていました。
次いで始まったのは、中川さんによるピアノ教室。ピアノのアクションカットモデルを使って機構を説明したり、響板をはじめ、ピアノのさまざまな部分が響いて音を発していることを、見て、触らせて体験させたり。「みんなも震える(響く)楽器を持っているんだよ! 喉に手を当てて声を出してごらん! ね、振動したでしょ。バイオリンもピアノも、そして声も、みんな振動して音を出しているんだよ」という中川さんの言葉に、子どもたちも納得した様子でした。
最後、神谷さん、中川さんによるモンティの『チャルダッシュ』を演奏して今回のアウトリーチは終了——と思いきや、アンコールの声に応え、2人は再び登場。神谷さん、中川さんの特別な計らいで、プロ2人が伴奏しながら、生徒たちは合唱をさせていただけることになりました。川崎町立前川小学校ではAKB48の『365日の紙飛行機』、川崎町立川崎小学校ではEXILEの『道』を、それぞれ合唱。子どもたちは気持ち良さそうに歌っていました。
子どもたちに感想を聞くと、「振動によって音がなっていることがわかった!」「生演奏がカッコよかった!」と満足した様子。終了後、中川さん、神谷さんにサインをねだる〝小さなファン〟の姿も印象的なアウトリーチでした。
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神谷未穂さん、中川賢一さんの音楽アウトリーチ
間近でバイオリンの音を体感
ピアノの構造を教える
ピアノの内部に興味津々
バイオリンとピアノで音楽の仕組みと楽しさを伝える

音の響きをピンポン球で教える!?
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アウトリーチ終了後、お二人にお話を伺いました。「両学校とも、生徒たちがとても元気いっぱいで、本当に目をキラキラと輝かせながら楽しんでくれてとっても嬉しかった」と神谷さんが話せば、中川さんも「そうですね。両学校ともとっても元気で、でもメリハリもあって、そして歌がどちらも本当に素晴らしかった。むしろ、我々の方が子どもたちから元気をたくさんいただきました」とのこと。この日のアウトリーチも大成功だったようです。
神谷さんと中川さんは、「えずこキャラバン」では長くコンビを組んでいる間柄。本当に息のあった様子で、見学していても安心感がありました。「基本的な形はやりながらだんだんできてきて。最近は今日のようなスタイルです。ですが、同じことをやるにしても、子どもたちの反応を見ながら、少し変えたり。そのやりとりを楽しむのも、このアウトリーチの醍醐味ですね」と神谷さん。その言葉通り、この日のアウトリーチの内容も、両校で微妙に変わっていました。
フォーマットはありつつも、一回ずつ丁寧にカスタマイズする——そんな丁寧な姿勢には、お二人の音楽教育に対する思いがありました。「我々はクラシック音楽を特にやっているんですけど、それらは西洋のものであり、昔のものでもあり、その曲を聴かせて子どもたちにいきなり楽しんでもらうっていうのは難しいこともあるんですね。だから、例えば楽器のメカニックな部分に興味を持ってもらって、そこから音楽の世界に入ってくれてもいいのかなって。あらゆることで興味を持ってくれればいいと思って、いろんな〝入り口〟を用意するようにしています。短い時間ですが、アウトリーチをきっかけに、例えば神谷さんがなさっている仙台フィルに聴きに行くとか、そういう風に深いところまで持っていけたらいいなあと。そんな思いも込めて、活動させていただいております」(中川さん)。
最後に、えずこホール20周年に寄せて、感想を伺いました。
「えずこホールとは2004年にアウトリーチが始まり、そこから長いおつきあいをさせてもらっています。ずっとご縁が続いていることには、スタッフはじめ、関係者の皆さまに本当に感謝です。音楽家として貴重な経験をさせていただいております。今度で〝成人〟ということで、そこにも関われるのは楽しみですね。仙台フィルも300回定期演奏会が2016年4月にあったんですけど、そういた大事な節目の時に、自分がその場にいるかどうかは大きなこと。〝えずこせいじん〟に、自分もその一人として出演させていただけるのは、本当にありがたい。次は、ぜひ〝ダブル成人〟を目指してがんばってほしいですね」(神谷さん)
「関わりは13年目くらいかな。僕も全国いろんなホールと活動をご一緒させてもらっていますが、一番長いんじゃないかな。20年の中の13年間も関われたのは、自分でも大きいなと思います。来年の20週年記念がすごく楽しみですね。えずこホールはあらゆる分野のアウトリーチ、それは音楽であったり、ダンスであったり、演劇であったりと、ジャンルが幅広くて、また、年間を通じてこれだけの数のアウトリーチをやっているホールは全国でもなかなかない。アウトリーチをやっている範囲も恐ろしく広いですよね(笑)。福島県や山形県の県境まで抑えている。宮城県の1/3くらいの面積になるんじゃないかな。それを『大変だ』とも言わない、ホールスタッフは凄いと思う。ここまで来たのはスタッフの力ですね。本当にお疲れさまでした」(神谷さん)
(文:乾祐綺)
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〝音楽のあらゆることに興味を持ってくれたらうれしい〟
