えずこホール開館20周年記念事業 えずこせいじん博覧祭

歌って踊ろう!!

真夏の大ミュージカル!

ヤッホホーイ!

2016.7.24

事業概要


演劇家・柏木陽と音楽家・片岡祐介による音楽と演劇をたっぷり楽しむ5日間。
子どもたちのセリフが弾け、子どもたちの音楽が踊りだす、インスタント・オリジナルミュージカルの出来上がり!

    アーティスト プロフィール

  • 柏木 陽 (演劇家)
    1993年、演劇集団「NOISE」に参加し、劇作家・演出家の故・如月小春とともに活動。2003年にNPO 法人演劇百貨店を設立。全国各地の劇場や学校などで、子どもからおとなまで、幅広い世代を対象に独自の演劇空間を作り出している。青山学院女子短期大学、大月短期大学、和光大学等で講師も務める。

  • 片岡 祐介 (音楽家)
    東京音楽大学で打楽器を学ぶ。障害者、高齢者施設、病院など様々な場所で、即興音楽セッションを行う。06年度、NHK 教育TV 番組「あいのて」にレギュラー出演。12年~13年、京都女子大学と京都造形芸術大学の非常勤講師を務める。

    5日間の創作活動。子どもの魅力を引き出すのではなく、感じる

  • 子ども時代の夏の思い出や出来事は、日常のそれと比べると、とても印象強く記憶や心に深く残っているものではないでしょうか?

    この夏、「えずこホール」にて小学生の子どもたちを対象に奇想天外な楽しいミュージカルをみんなで作り、発表するというワークショップが7月16・17・18・23・24日の5日間にわたって行われました。演劇講師に演劇家・柏木陽さん、音楽講師に音楽家・片岡祐介さんをお招きし、小学3~6年生の17人の子どもたちが参加しました。1日5時間程度の創作活動を4日間行い、最終日の5日目にミュージカル作品を発表するという通しのワークショップ。子どもたち自身が歌詞を作り、曲を作り、出来上がったたくさんの曲をつなぎあわせて1本のミュージカル作品が完成しました。

    講師2人はナビゲート役であり、あくまでも創作をするのは子どもたち。創作過程についてお尋ねすると、柏木さんは「片岡さんが、子どもたちが作った歌をわらべ歌みたいだねっておっしゃたんです。揺れて変化していくのがわらべ歌とも説明されていたんですが、演劇も揺れて変化するものだったりします。ただその変化に対して合意がとれていければいいけど、合意なく変わっていくこともあってそれがだめでまた繰り返しということもあるんですよね。でも、今回のワークショップに関しては混乱せずに自然に変わっていくことが多かったですね。それこそ『わらべ劇』と呼べるような」と話してくれました。

    創作過程で2人が大切にしたのは子どもたちの自主性であり、「よくしていこうと導くよりは、余計なことをしないこと」と片岡さん。「子どもたちの魅力を引き出すというよりも、むしろ感じるというか『そうきたか、よくそんな発想が浮かぶね』といったような、我々が感じるものがあればやっていける、一緒にやれるなと思えました」。柏木さんも「子どもたちから出ているものを注意深くみて、こっちでなんなのかと考え受け止めるように進めていきました」と言います。

  • 子どもたちをリードする柏木さん

    音楽に伴奏をつける片岡さん

    ワークショップを通じて作成された歌詞

    子どもたちの歌でつむぐミュージカル。全身を使っての表現!

  • 創作活動、練習を経て5日目の最終日。いよいよ本番。観客席の中心に舞台があり、そこに円を描くように子どもたちが座り、各々が手にした太鼓、鈴、タンバリン、リコーダーといった楽器を一斉に鳴らし始めました。ミュージカルの序曲として奏でられるインストゥルメンタルの調べ。曲名は『森の音楽祭』。もちろん、子どもたちが主体で作曲したものです。

    曲が終わりミュージカル作品『森の三日月 くるくるケンタッキー 夜のお話』が開幕しました。
    ストーリー:
    森で遊ぶサルたち。三日月を待っているけれど、月はずっと満月のまま。困っているうちにくるくるちゃんという子がいなくなってしまいます。サルたちは、行方不明になったくるくるちゃんを探してほしいと、ケンタッキーくんという友だちにみな手紙を書くのですが、なんとそれ全部ポストが食べてしまいます。焦ったポストはケンタッキーくんに偽の手紙を出しました。偽の内容に従って森に入ったケンタッキーくんは途中で悪夢人形に出会ったり、廃校になった校舎をさまよったり…。そうこうするうちに満月が三日月になり、くるくるちゃんが森へ戻ってきて、ケンタッキーくんもケンタッキーを買って帰ってきて、みんなで良かった良かったと終わります。

    舞台上での案内人・柏木さんも、あらかじめ観客に向かってこのストーリーを話し、「すごく複雑な話で、それがただただ歌でつながれていきます」と解説。その言葉どおり、次から次へと展開する場面と歌とストーリー。リズムにあわせてひたすら「どうする、どうする」と歌って踊る曲もあれば、メロウな曲調で「悪夢人形」の心情を歌う曲もあり、また登場人物(動物?)としてだけでなく、各々の身体を使って建物を表現したりと、背景もなにもかも自分たちで表現されます。まさに大人にはない自由な発想の、奇想天外なミュージカルでした。

    5日間という短い期間にもかかわらず、歌も踊りも演奏も満載の作品を作り上げ、全力で演じた子どもたち、そして2人の講師に会場は拍手喝さい。カーテンコールの予定はなかったのですが、鳴りやまぬ拍手に勝手に舞台に再登場する子どもたち。その姿と笑顔に、「えずこホール」の未来が写し出されているように感じられました。

  • 子どもたちが一斉に楽器を鳴らす

    子どもたちと演奏する片岡さん

    くるくるちゃんの1シーン

    自由で自然な展開と、子どもたちだけがもつ能力

  • 公演後、印象深かったところについて柏木さんは、「ワークショップで、一人ずつ身体で形をつくっていってもらったんですが、1人の子が『できない』ってなってぐるぐると回り始めたんです。それで、みんなでどうする、どうする~って言いはじめて、そのうち「どうする~♪」って歌ができちゃって。こんなふうに、ワークショップであったことそのままが作品になっていきました。通常、舞台づくりは創作過程と物語を作る行為が分かれるものですが、彼らの場合は分かれずにそのまんま行ってそのまんま戻ってくるような感じでした。こういう流れは僕もあまり経験がないから、とても面白かったですね」と語ってくれました。

    また、子どもたち同士での自己解決能力について片岡さんから、「大人には理解できてないんだけど、なぜか子どもたち同士は理解しあえている。これは大人が受け取る力を失っているということでもあり、大人になるほど能力が上がるとは限らないということなんですね。魚が群れでひゅっと動くみたいに、子どもたちだけで自然に動いてたりして、僕たちはいつ決めたの?ってこともありました(笑)。大人にはキャッチできない何かがあるんですよね」との感想が。「やっぱりあんまり指示しないようにするのが面白いと思いましたね。指示をしないとね、勝手に美的なセンスを発揮しだすんですよね」。

    子どもたちにとってかけがえのない思い出になったこの夏の5日間は、同時に、講師2人にとっても何かを新たに得ることができた5日間だったのではないでしょうか。

    (文:木下貴子)

  • 「どうする♪どうする♪..」ワークショップで生まれた歌(ストーリー)に合わせて踊る

    演劇家:柏木さん(左)音楽家:片岡さん(右)