えずこホール開館20周年記念事業 えずこせいじん博覧祭

きむらとしろうじんじん


野点

2016.10.19

事業概要


秋晴れの10月19日、阿武隈急行線岡駅前で行われたのが陶芸家であり美術家・じんじんさんによる野点。
参加者自身が素焼きのお茶碗に絵付けをし、その場で焼き上げられた自作のお茶碗でお茶を楽しみました。

    アーティスト プロフィール

  • 1967年新潟生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究家で陶芸を学ぶ。旅回りのお茶会「野点(のだて)」は1995年からスタートし国内外で活動、その数は200か所以上にのぼる。

    〝あぶきゅう〟岡駅前でじんじん野点を開催!

  • 秋晴れの10月19日、阿武隈急行線岡駅前で行われたのが陶芸家であり美術家・じんじんさんによる野点。参加者自身が素焼きのお茶碗に絵付けをし、その場で焼き上げられた自作のお茶碗でお茶を楽しむというもの。

    当日9時過ぎ。岡駅前ではすでにじんじんさんを中心に、ボランティアのスタッフたちが準備を開始。大小2台のリヤカーに、陶芸窯や陶芸道具などを積んだ、じんじんさんの〝陶芸お抹茶屋台〟を中心に、バルーンアートやキッズスペース、切り絵や古本などの小商いブース、写真展示など、さまざまなコーナーが設えられていきました。

    11時のイベント開始を前に、早くもお茶碗を選ぶ長い列が。みなさんが、どれだけ心待ちにしていたイベントかがわかります。この野点イベント、えずこホール主催で行われるのは10年ぶりで、この日の参加者の中には「10年前に来たけど絵付けできなくて。ようやく来れた!(笑)」という方もいらっしゃいました。

    イベント開始後30分ほどで、なんとお茶碗が売り切れに!? その後は延々と、じんじんさんが窯でお茶碗を焼き上げつつ、傍では自らお茶を立てていきました。参加者が絵付けしたお茶碗を持ってくれば、「丁寧な仕事ですね〜」「集中してやっていたね」「これは焼き上がりが楽しみやね」と、じんじんさんは一人ひとりに声をかけていきます。じんじんと一緒に写真を撮りたいという子供がいれば、「今から窯出しやから、終わったら必ずな!」と、じんじんさんは忙しいながらも丁寧に対応。そんなじんじんさんの優しい人柄に集まるかのように、イベントには平日にも関わらす、たくさんの人が参加。しかも、赤ちゃん連れからファミリー、壮年世代、近くの老人ホームの方など、多世代が一つの場で楽しんでいる様子が印象的でした。

  • じんじんさんを中心に、ボランティアのスタッフたちが準備を開始

    イベント30分でなんと茶碗が売り切れに!?

    多世代が一つの場で楽しむ

    10年の想いが詰まった〝じんじん野点〟

  • えずこホール主催によるじんじんさんの野点は、ホール10周年記念イベント「十年音泉(てんねんおんせん)」以来だといいます。「10年前にできなかった〝何か〟を見つめ直して、地域と新たに繋がっていけたらいいなあってのが、今年の、えずこホール20周年目でやりたかった野点ですね」とは、えずこホールの玉渕博之さん。

    「より地域へ!」という想いで進めてきた今回の野点ですが、実は今日に至るまでには長い伏線が。遡ること4ヶ月前、じんじんさんはじめ、野点に関わるスタッフたちを集めてえずこホールでミーティング。そこで「角田方面で」というやんわりとした方向性が決まり、7月には実際に散歩会と称した地域の下見を実施。さまざまな視点から検討された結果、最終的に今日の岡駅前(角田市)と筆甫(丸森町、10月23日開催)での開催になったそうです。

    この日の岡駅前でのイベントは、平日にも関わらず多くの方が集りました。じんじんさんの野点は、その魅力にひきつけられたたくさんのスタッフに支えられています。参加したスタッフに、じんじんさんの野点の良さを聞いてみました。 

    「えずこホールができた当初、吹奏楽団に所属してたんですね。十年音泉では、大ホールで野村誠さんたちとコラボしましたし、野点にもスタッフとして関わらせてもらいました。野点は、やっぱりじんじんさんがいなければ出会えなかった人、そういう人に出会わせてくれる。今回も、知らない人と友達になりまして、その友達が別の友達と知り合いだったり。そういう繋がりが広がるのが魅力ですね(ロバートムラカミさん)

    「最初はじんじんさんの見た目のインパクトに誘われてしまったんですが、関わっていくと、彼の対応や考え方が感銘を受けるくらい、人として素晴らしかった。今年は、スタッフのシフトの中心的な役割を担っています。十年音泉で始まった仙南アート屋台プロジェクトというグループで、じんじんさんを2回お呼びして野点をやらせてもらったノウハウがありましたもので、それを生かす形で。今回シフトをやっていて感じたのは、今までは『じんじん素敵!』という人が多かったけど、『イベントやるなら、◯◯などで力になれますよ』って、才能を持った方が多く参加されたこと。これも、えずこホールが長年(アートを地域に根ざす活動)やってきた経緯もあると思うんですね。点と点だったものが、線になってきたという感じがします」(マーブルさん)

    「アート屋台プロジェクトに6年くらい前から顔を出すようになって、そこから。野点は、2年前に大河原駅で行われた際に参加したのが初めてでした。私は、ここが地元。20年くらい、地元と関わらない生き方をしていましたが、野点を仙南地域のどこで開催するか、という議論の中で、地元と関わりを持ちたいという気持ちが出てきて、僕は岡駅前を提案しました。地元開催ということで、地域のお世話になった人たちのところへ挨拶回りをしていく中で生まれたのが、今回の写真展示。地域の方々が玄関前で撮られた古い家族写真を集めて展示したのですが、見てくれた方々が懐かしいと喜んでくれてうれしかったです」(ねんぶつさん)

    「いっぱいあるんですけど、シンプルに言えば、とにかく、ゆるく繋がれる。人と人とがつながったり、モノとコト、コトとコトが繋がったり。やっぱり、じんじんさんが動かない軸として、ドーンとそこにあって、魅力を感じた人たちが集まって、『野点以外にもいろいろやっていいんだよ』っていう、じんじんさんのオープンスタンスからいろいろ派生して、繋がりを持って広がっていくっていうか」(えずこホール・玉渕博之さん)


    ▼当日のインタビューと様子

  • スタッフの想いが詰まった岡駅

    彼の対応や考え方が感銘を受けるくらい、人として素晴らしい(マーブルさん談)




    じんじんさんが考える野点

  • 岡駅前での野点が終盤を迎ええつつある中で、じんじんさんにお話を伺うことができました。
    (——じんじんさん、今回の感想をお願いします)
    「全体の感想に関しては筆甫が終わるまでは、と思ってます。ただ、今日に至る4ヶ月の中で、角田と丸森を下見して、散歩して、で場所を決めて、地元の人にお願いして、ということをやったのは、内容としてはちょっとToo matchだったかなって思っている面もあって。でも、下見が足りなかった分、僕ではなく、岡駅や筆甫に思いのある人たちが、野点をいい意味で使って、いい言い訳にして、自分たちが乗っけたいものを、その風景に乗っけてくれたのが、一番嬉しいですね。ギリギリまで、どういう場の設えにするのかを粘り、余白を空け続けれたんはよかったのかなって。

    (——野点をやる上で、大事にしていることは?)
    一つは決まってますよ、安全第一! あ、それではあんまり回答になってないですよね(笑)。でも、まあ、言うたらそれに尽きるという面もある。やってる本人が言うのもなんですけど、人がうじゃうじゃいる路肩で、800度の窯を焚くというのは、安全にできる確信はあるけど、基本的にはちょっと無謀。引き受ける土地の方にとっても、ちょっと無茶と思う。

    そういう意味では『せっかくこんなんやるんなら事故起こしたらあかんよね』と、みんながその意識を持っているのが、実は一番重要なんちゃうかなって。それは現場の空気感も決める。なんかこう、すごく重要なことも含んでて、例えば野点のスタッフに『絶対ゆっくり動いてください』っていうのはイコール安全第一でもあるし、スタッフが落ち着いてゆっくり動いている場ってのは、お客さんにとっての〝余白〟が広い場だとも思うんですよね。ちょっと無茶なことをやる、安全第一ってのをきちんとやるってことが、結局お客さんにとっての余白を広げていっているって思いはあるね、そういう意味も含んでいる〝安全第一〟ですね。

    (——余白の大事さについて)
    10年前を考えても思うんだけど、例えば今回の現場を支えてくれてるスタッフの中で、結構沢山の方が十年音泉の時にも関わってくれていた。そういう人と何で出会えたのか。それは間口を広げて、余白をたくさんとってたからと思う。もしこれが『十年音泉ってのはこういうイベントで、野点はこうでとか、今回の野点も、新しいコミュニティづくりだとかって人を募集したら、こういうええ意味での有象無象は集まっていないわけですよ。僕の考え方なんですけど、ミッションありきには絶対しない。よく自分のことを説明するときに〝野点原理主義者〟だと。野点より上に、何らかの意義、ミッションとか、◯◯の〝ため〟とか、そういったものがくることはないんですね。まずはこの現場を一緒にやりましょう、一緒に作業しましょう、安全第一です、って中ででてくる余白に集まってくる人たち(が大切)。もちろんミッションを感じていないわけではない、でも、それで場を囲い込んだ瞬間に、たぶん参加できなくなる人がいるやろうなっていう、そういう感覚ですね。構造を目的化したりは絶対にしない。〝名付ける側に回ってたまるか!〟って思っているんですけど(笑)。そういう気分でやっていることが多いです。

    けど、言うほど、うまいこといかないことも多いですよね。決まっているのは野点だけ。屋外で、不特定の人が行き来できる場所で、お茶を飲む。そこに来る人は、例えば、酔っ払いであろうが、見物人であろうが、お茶碗を目的に来た人であろうが、誰であれ、基本的にはお客さんなんです。

    (文:乾祐綺)

  • 野点は夜まで続いた